研究者紹介 No.30

研究者紹介
更新日:2022年12月26日(所属・役職等は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

基礎物理出身で学生時代は素粒子実験の分野におり、修士を終了するかという時に東日本大震災が起きた。その後、博士課程は修士と同じく素粒子実験の分野に進んだが、その傍らでNPOにて物理や生物、臨床統計の研究者を中心に一般市民の方も交えての放射線に関する勉強会を行い、放射線の健康影響や生物影響を調べた研究論文の解説本を出版した。それがきっかけとなり、学生時代の分野と共通項もある物理系の測定を伴う線量評価を入り口として放射線の分野に就職することになった。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

分野は違うが大学入学当初から将来は研究職に進みたいと考えていたところがあるので、学部生の頃に就職活動を見送ることに、抵抗は感じなかった。ただ、修士の頃や博士の頃、研究活動がうまくいかない時には、企業就職を考えるべきだろか、と何度か考えた。だが、その度に知りたいことがわかった時の快感や、興味関心のあることに仕事時間の多くを費やせる、学会等で様々な土地にいけるなどの研究職の魅力に未練があり、仕事として研究を行う立場に一度はつきたいと思いとどまった。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

原爆被爆者のデータベースの解析や、既に出版された論文のメタアナリシスなどを通して、放射線に関係する健康影響を調べている。被曝から人の健康影響に至るまでの機序は非常に複雑でその全てを完全に解明するのは容易ではない。しかし、疫学という手法は具体的な生物学的機序の解明を待たずに、被曝と人の健康影響との関連や因果関係の有無に迫ることができ、放射線防護の根拠として社会に直接的に関わるほか、機序解明へのヒントを与えることもある点が魅力だと思う。図は広島原爆爆発時に体内の臓器が受けた放射線量とその人の爆心地からの距離との関係(上二つ)と、線量の見積もり方法の改善前後の比(下二つ)。放射線による健康影響を調べるためには「その人がどの程度の線量を浴びたのか」と「その人がその後どのような健康状態になったのか」の両方の情報が必要だ。線量評価分野時代の経験も活かせる。

Seiko Hirota, Hiroshi Yasuda, Hideshi Kawakami, Shinji Yoshinaga. Prospects and status of the dosimetry system for atomic bomb survivor cohort study conducted at Research Institute for Radiation Biology and Medicine of Hiroshima University. Journal of Radiation Research, April2021,Volume62,IssueSupplement_1,Pages i107-i113, https://doi.org/10.1093/jrr/rrab020,(参照2022-12-01)

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

研究結果は簡単には答え合わせできない。結果の正しさへの信頼度をあげていくためには、基本的なことを泥臭くとも着実に積み上げていくことが必要。間違いが見つかれば正しいと自信が持てる所まで引き返す。解析でもシミュレーションでも実験でも、研究は仮説を立てて臨むが、あくまでも出てきた結果に誠実であることが大事。こう思うに至った特別なエピソードはないが、院生時代の研究生活において手探りで進んでいく事に不安を感じたり悩んだりする中で自然とそう思うようになった。

あなたの好きな(縁のある)放射性同位体や元素を教えてください

ナトリウム22。学部生の頃、最初に取り組んだ実験らしい実験が、ナトリウム22から出る陽電子によりポジトロニウムを生成し、量子もつれの現象を観察することで量子力学の正しさを検証するという演習であった。この演習はチームを組んで半年間かけて行うもので、初めて取り組んだ実験であったことに加え、夫と初めて出会ったのがこの演習であったこともあり、非常に印象に残っている元素である。

研究の息抜きにしていることを教えてください

放射線疫学ではデスクワークが多く、油断すると肩こりや腰痛に悩まされるため、一息つきたい時や考えが煮詰まった時には体を動かすようにしている。ベリーダンスを趣味で習っているため、人目につかない場所でこっそり踊っていることもある。散歩やサイクリングも好きだが、ダンスは移動しないためストレッチ感覚で短時間だけ行えるし、普段の生活で使わないような筋肉も使うため、心地よくて気に入っている。また、昔から鳥が好きで、鳥成分が枯渇したら野外に鳥を見にいくこともある。

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

私たちの現在の生活は放射線に支えられている。原子力はもちろん、それ以外にも非破壊検査などで工業で使われることもあれば、品種改良のために農業で用いられることもある。また、医療面での利用は目覚ましく、放射線診断や治療という手段を人類はもはや手放せないと思う。安全な利用のためには基礎的なことから応用に至るまで放射線にまつわる様々な研究や技術開発が欠かせない。放射線疫学の前は線量評価分野に所属していたが、どのテーマも社会を支えるものでやりがいがある。学生の方には、興味の赴くままに自由に研究してほしい。


廣田 誠子(ひろた せいこ)
専門
放射線疫学
略歴
2016年 京都大学理学研究科物理学・宇宙物理学専攻博士課程単位取得退学、2016年京都大学臨床統計学講座 教務補佐員、2017年広島大学原爆放射線医科学研究所 線量測定・評価研究分野 助教、2020年より現職。
2021年広島大学にて博士号(学術) を取得。