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大学2年の時に放射性医薬品に関する共通教育科目を受講していました。当時はまだ核医学という言葉も知らず、私の興味は何となく馴染みのあるCTやMRIに向いていましたが、栄養素やキレートに放射性同位元素をくっつけて動態を追跡し、生体機能を画像化する、という講義を聞いて一気に引き込まれました。マイナスのイメージが多い放射性物質が最先端の医療に用いられていると知ったときは衝撃でした。
幼い頃から研究者という職業に憧れがありましたが、どこか遠い世界の話だとも思っていました。なので、最初から研究職に進んだ訳ではなく、修士課程を修了後は病院に就職しました。診療放射線技師の免許を取得していたので、臨床現場に出るのが自然なことだと思っていました。しかし、修士の時の実験に追われる日々が忘れられず、思っていたより研究が自分に向いているのだと分かりました。その後、病院を退職して博士課程に進みました。退職はかなり勇気が要りましたが、後がない危機感があったからこそ大学院では勉強と研究に必死に取り組み、今があると思っています。
現在は主に、既存の薬や物質によって放射性薬剤の動態を変化させる研究を行っています。有名なPET用薬剤のfluorodeoxyglucose(FDG)は糖を摂取すると分布が変わることが知られていますが、同様の事象が他の放射性薬剤にも起こります。例えば、99mTc-テトロフォスミンはシメチジンという胃酸抑制剤と競合し心肝比が向上します。
このように、動態を積極的に変化させて被ばくの低減や検査効率の向上を目指すことがこの研究のメインテーマです。同時に、核医学検査に影響を与えることが知られていない物質はまだ多くあると私は考えており、それらを食事や薬で摂取することによって検査結果が過小/過大評価されてしまう危険性についても検証し、周知していきたいと思っています。
「すべて前向きに考える」ことを意識しています。研究には失敗が付きもので、想定通りの結果が素直に得られる事の方が少ないのです。うまく行かなかった、予想と違った事を嘆くのではなく、「この方法ではうまく行かない事が分かった」と考え、知識・経験・ノウハウが増えたことを喜ぶようにしています。
私は時間を忘れてのめり込んでしまうタイプなので、定期的にアラームを設定して休憩を取るようにしています。暖かいコーヒーを飲みながら製品カタログや旅行パンフレット等を眺めています。また、昼休みにはYouTubeで科学チャンネルを流しながら昼食を取ったりもします。最近は運動不足が続いているので、そろそろウォーキングやランニングを取り入れるべきか悩んでいます。
放射能や放射線は何かとマイナスのイメージを持たれやすいですが、人類に有益な利用法もいっぱいあります。アイソトープが様々な分野で利用されているのは、放射線を用いないと実現できない・分からないことが沢山あるからです。アイソトープの利用が思いも寄らない分野でのブレイクスルーのきっかけとなった経験を私は何度もしてきました。皆さんも専門の枠に捕らわれることなく色々なことに興味を広げ、新しい有効利用法を見つけて下さい。