研究者紹介 No.23

研究者紹介
更新日:2022年2月10日(所属・役職は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

卒業研究では植物をテーマにしたいと思い、配属先に選んだ研究室が、植物と放射線を扱う部屋だったというのが全ての始まりです。中性子線を使った水のイメージングや、即発ガンマ線分析、放射性同位元素を用いたトレーサー実験等が当たり前のように行われていたのです。私自身は、東海村にある研究用原子炉に通って中性子線を使った放射化分析を行い、植物の成長と無機元素分布について調べていました。言うなれば放射線は、植物研究を選んだ私が最初に手にした実験ツールです。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

修士課程への進学率は9割を超えますが、博士課程進学となると3割程度です。私も修士課程在籍中には周囲の流れにのって就職活動を経験しました。当時は金融企業や公務員を考えていたので、説明会に参加したり、OB訪問もしたものです。けれども、研究室での実験のほうが楽しくて、いつの間にか就職活動はフェードアウトしていました。一方で、国内外の学会に参加して、多様な研究者(性別・国籍・年齢)に接しているうちに、研究者という職業がとても身近に感じられ、自分の将来像としてイメージできるようになっていました。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

植物が地球上の多様な環境に適応しながら成長する仕組みを知り、これを利用する研究につなげることで作物の安定生産に貢献したいと思っています。学位取得後は主に、植物が根から無機元素を吸収し、体内の各組織に分配していく仕組みに関わる分子の機能を解析するために放射性同位元素をトレーサーとして使っていて、最近ではこのコンセプトでの国際共同研究も増えています。環境ストレスや遺伝子変異などによって、植物体内での無機元素の動きがガラッと変わることもあり、それを手掛かりに植物の未知なる機能を探っていく過程は宝探しのようで面白いです。

あなたの好きな(縁のある)放射性同位体や元素を教えてください

28Mg;学生時代からマグネシウムの生理的機能について興味を持っていましたが、この核種の存在によって、研究テーマとして本格的に取り組む決心がつきました。放射化学の研究者の方々のお蔭で研究利用できている、とても大切な核種です。
109Cd;私の実験として行った初めてのトレーサー実験で使った核種です。この核種を様々な手法で検出しようと試行錯誤した経験が今に活きています。
この他にも、これまでに15種類ほどの放射性同位体を使い、それぞれに思い出があります。

研究の息抜きにしていることを教えてください

家事や育児が良い気分転換になっていると思います。博士課程在学中に二回出産したので、研究者生活は常に子育てと共にありました。研究上の様々な問題や失敗に直面すると気分が落ち込むわけですが、研究室を離れた途端に頭の中が否応なく家事と子どものことに完全に切り替わるという環境は、私にとっては良い方向に働いたのではないでしょうか。しかし、彼らももう高校生と中学生になったので、そろそろ育児に代わる息抜きを考える必要がありますね。

今後の目標、展望を教えてください

ゲノム科学の発展により、研究材料となる植物が短期間で豊富に揃えられるようになり、トレーサー実験で調べたい事象も多様化しているので、これに合わせてトレーサー実験手法も新規開発するとともに、実験手法を"流布"していく活動にも注力したいです。さらに今後は、植物体内のみならず、植物-異生物間における物質動態の解析など、植物の生き様を広い角度から捉える研究にも挑戦していきたいと思っています。

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

人の興味というものは年齢や環境等によって移ろうかもしれませんが、放射線研究とその遂行のための知識は、あらゆる研究分野で将来にわたって役立つものです。このことは、例えば学内において農、医、工、薬、理学部など、部局ごとに放射線施設を抱えていることにも表れているのではないでしょうか。放射線の素養に、応用的な研究分野への興味を組み合わせることで、誰にも真似できない研究の世界が切り開けると思っています。


小林 奈通子(こばやし なつこ)
専門
放射線植物生理学、植物栄養学、放射線計測
略歴
2001年 東京大学農学部卒業、2009年 東京大学大学院農学生命科学研究科修了 博士(農学)、日本学術振興会特別研究員(RPD)、特任助教、助教を経て2018年より現職