研究者紹介 No.19

研究者紹介
更新日:2021年9月17日(所属・役職は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

高校時代の授業の中で、偶然の好奇心から放射線のもつ不思議な性質に興味を持ち、また、自分の興味を探求できる研究職という働き方に魅力を感じました。大学では、医学部保健学科診療放射線技術科学を専攻し、卒業研究のために低線量放射線の生物影響の研究を行っている研究室に所属したことが、私の研究者のキャリアのスタートです。学部・大学院では、放射線について物理的基礎理論から放射線生物学まで幅広く学ぶことができました。当時から研究テーマは変わっていますが、現在も幸運にも放射線に携われる進路を歩むことができています。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

大学院進学の際は、診療放射線技師として病院で働く、社会人経験を経て大学院に進学する、という選択肢もありましたが、卒業研究の際は、研究室に配属された時から博士課程への進学を考えており、進学への迷いはありませんでした。しかし、一方で大学院時代には、学位取得後の生活について、経済的に安定した職に就くことができるだろうか、という漠然とした不安は抱えていたことも事実です。実際には、職縁に恵まれ現在のポストにつき研究を続けることが出来ています。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

私は、低線量放射線による発がんリスクと発がんメカニズムを、生物学的に明らかにするため、放射線によってマウスに生じる白血病(rAML)の原因となるSfpi1という遺伝子の変異に着目し、動物実験を行っています。近年、CTなどの放射線検査による低線量放射線被ばくによる健康影響として、発がんリスク増加が懸念されています。100ミリシーベルト以下の放射線被ばくによる健康影響や発がんリスクを議論する際に、疫学データは重要な知見となりますが、放射線の発がんリスクは、線量が低くなればなるほど、喫煙や健康習慣などの他の発がん要因の影響に隠れてしまうため、評価することは容易ではありません。放射線の発がんリスクを科学的な知見から明らかにするには、疫学調査研究を補完すべき放射線生物研究によって知見(ミクロな現象)を積み重ねていくことが重要だと考えています。

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

自身の研究を批判的・客観的に捉え、研究成果が社会にどう役立つか、どう貢献できるのかという観点を持つようにしています。基礎研究は、時に何の役に立つのか、という指摘を受けることがあります。また、研究活動には多額の研究費や多くの人の協力が必要不可欠です。それらによって研究活動が支えられていることを理解し、得られた成果は社会にどのように価値あるものとして還元されるのかということを明確にすることで、研究に誠実に責任を持って向き合うことができると思います。

あなたの研究人生において、影響を与えた方を教えてください

私はこれまでに良い恩師達に出会えたことを幸運に思っています。岡山大学大学院の山岡清典博士・片岡隆浩博士は、私の研究者としてのキャリアスタートを支え導き、研究のイロハを授けてくれました。また、大分県立看護科学大学に着任してから熱心にご指導いただいた環境保健学研究室の甲斐倫明博士・小嶋光明博士からは、研究者としてだけでなく教育者や人間としてのモノの見方、考え方や姿勢について、多くの薫陶を得ることができました。その他、共同研究等でお世話になった先生方から頂いたご指導やお言葉が私の支えになっています。

研究の息抜きにしていることを教えてください

最近は、運動不足の解消と健康増進のために筋トレを行ったり、趣味として料理に挑戦したりしています。時間が取れないこともありますが、息抜き中に考えをまとめたりすることができ、疲れた時には、ぼーっとすることができる時間になっています。

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

アイソトープや放射線は、理工学などの基礎的分野はもとより医療、農業、工業、環境など様々な分野で積極的に活用され、世界中から放射線に関する研究が日々報告されています。放射線研究では、非常に幅広い研究領域からの横断的な知見や技術の集約を必要とする点が非常に魅力的だと思います。また、自身の専門分野に捉われず様々な専門分野の方々との交流し、議論を行うといったつながりを持てることがこの分野の特色であり、研究者としての成長の機会にもなっていると感じます。


恵谷 玲央(えたに れお)
専門
放射線生物学、放射線防護
略歴
2016年より大分県立看護科学大学 人間科学講座 環境保健学研究室 助手に着任、2017年岡山大学大学院 保健学研究科保健学専攻博士課程 修了し、2017年より現職