研究者紹介 No.7

研究者紹介
更新日:2020年3月12日(所属・役職は更新時)

アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

「手に職を付けたい」と思って高専に行きましたが,就活時は最悪の不景気だったので進学に切り替えたところ,編入枠を増やしたばかりの東大に拾ってもらえました。ロボット・バイオ・資源工学等から専門を選ぶことができたのですが,折角すごい大学に入れたのだから国家レベルの仕事をしたいと思って原子力を選び,アイソトープを使う研究室へ仮配属されました。企業より国の組織で偉くなった方が(もし出世できれば)身内に仕事を回しやすいかな,くらいの浅知恵でした。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

リストラだの倒産だので親世代がとても苦労しているのを見ていましたから,「企業の方が安定している」というイメージはありませんでした。むしろ研究職の方がダイレクトに社会や経済と自分の専門性を繋げられると感じました。とはいえ,博士課程では(学費等が免除されたとしても)相応の所得機会を損失しますし,受け身な性格の方に研究職は向かないことが多いのも事実です。

現在の研究について

現在の研究内容,おすすめポイントを教えてください

私は原子力安全に関する「何でも屋」ですが,原子炉で使う金属材料の劣化評価には学生時代から携わってきました。まず加速器を使って原子炉材料に高エネルギー粒子を打ち込んで,原子レベルの欠陥を導入します。そして同じ場所へ電子線(または陽電子ビーム)を同時に入射して,出てくる透過電子線や回折電子線(またはガンマ線)を測定することでリアルタイムに劣化を観察します。放射線には色々な種類があり,入力信号や出力信号に適切なものを選ぶことで,複雑な原子炉構築物の劣化を制御したり,現象毎に切り分けて測定したりすることが可能になります。



今までで研究をしていて苦しかったこと、辛かったことを教えてください

助教として赴任した東大・東海村キャンパスでは,東日本大震災によって破損した加速器施設のリノベーションを担当しました。限られた予算とスケジュールで共同利用を再開すると共に,施設に新しい特徴を付加することが求められました。この間,原子力安全の研究者に対するバッシングや安全規制強化への対応もあり,何重ものストレスに晒されました。多くの方々(特に,破損した施設を使ってこられた先輩方)のご協力を得て,イオン加速器のビームラインを延長して透過電子顕微鏡と接合し,電子線と高エネルギー粒子の両方を使って材料変化を分析できるユニークな施設ができました。

同じ研究分野で関わりの深い方・企業を教えてください

放射線発生装置(加速器施設)の開発や運営は,研究者以外の方々にも支えられて成り立っています。例えば,先に述べた加速器施設の改修では,加速器ビームライン部分の製造・据え付けすべてを協栄製作所さんという東京・西大井の町工場が請け負ってくれました。私自身の未熟さのせいで随分とご迷惑を掛けましたが,辛抱強く接して頂いたおかげで,調達管理・施工スケジュール管理・ヤードワーク等,エンジニアリングのセンスを大学に居ながら鍛えることができました。

今後の目標・展望を教えてください

現在は,次の3つの目標を掲げて仕事をしています。
  • 2020年中に,過去の調査記録等をレジリエンス工学の観点で分析し直して,福島第一原子力発電所事故の再評価を行い,出版物にすること
  • 2022年頃までに,アイソトープの化学的特性と自然災害リスク評価を統合して,学校や企業の防災マニュアルの中に原発事故対応を組み込むための方法を確立すること
  • 2023年頃までに,原子炉容器の破壊靭性が中性子線によって低下する現象のメカニズムを(反原発の科学者も納得する形で)解明すること

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

放射線はとても便利な「信号」です。近代科学は放射線によって発展したといっても過言ではありません(過去のノーベル賞を見れば一目瞭然ですよね)。ルールに従って放射線を使うには幾つかのステップがあるので,ハードルが高いと感じる方も多いようです。でも,それは(主にコミュニケーションに関係した)手間を惜しんでいるだけで,技術的な難しさとは別物だと思います。


村上 健太(むらかみ けんた)
専門
原子力学(原子炉や放射線を利用する実験設備の開発と管理,原子力材料の経年劣化評価, トラブル事例の分析と安全マネジメント)
略歴
2004年北九州工業高等専門学校電子制御工学科卒業,2007年東京大学工学部システム創成学科卒業,2012年東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻博士課程修了 博士(工学),2012年東京大学大学院工学系研究科原子力専攻助教などを経て,2017年より現職