アイソトープ・放射線研究発表会 若手優秀講演賞 受賞者のご紹介

本賞は、若手の研究活動の奨励を目的とし、アイソトープ・放射線研究発表会において優秀な口頭発表を行った学生および若手研究者を表彰するもので、第49回(2012年)から実施しています。
受賞者の皆様の今後ますますのご活躍を期待いたします。
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第61回アイソトープ・放射線研究発表会「若手優秀講演賞」受賞者

(会期2024年7月3日~5日)
受賞者(発表時の所属) 演題(講演番号)
授賞理由
大矢 晃久 氏
(麻布大学獣医学部臨床診断学研究室)
ジェンツーペンギンの肺体積と気嚢体積のCT評価における体位の影響についての検討(1A02-05-04)
水族館で飼育しているジェンツーペンギンに対する血液検査で異常値があった延べ27検体を抽出し、呼吸器を評価するCT検査を行った。画像から気嚢体積、肺体積、気嚢内の液体貯留量、肺の浸潤像体積を測定し、仰臥位と腹臥位での差を調べた。結果は、気嚢体積の変化は仰臥位で、気嚢内の液体貯留の変化を把握するには腹臥位で測定することが望ましく、肺体積は有意差はないことが分かった。肺の浸潤像体積は仰臥位が腹臥位より高値を示したが、1個体延べ4検体の解析であることから誤差と考えられた。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
上條 みのり 氏
(東京大学大学院農学生命科学研究科)
植物のナトリウム耐性に寄与するNa+/H+antiporter(SOS1)の根毛における働き(2C18-20-02)
植物の塩害の主な要因として細胞内へのNa+の過剰蓄積が挙げられる。⽣理応答ではNa+の排出が不可⽋であり、排出輸送体としてSalt Overly Sensitive 1(SOS1)が知られている。また根⽑の耐性寄与が⽰唆されている。本研究では、特定の細胞にのみSOS1を発現させたシロイヌナズナの変異体を使い、濃度の異なるNa+ストレスを与え、根⻑や根の伸⻑率によって耐性を評価した。根⽑⾮形成細胞や根⽑形成細胞のみでのSOS1発現ではNa+耐性は⼗分ではないが、表⽪細胞での発現はNa+耐性に⼤きな役割を果たすことがわかった。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
栗林 千佳 氏
(関西学院大学大学院理工学研究科)
珪質・珪藻質泥岩中の深部地下水の234U/238U同位体比の変動把握(1C02-06-02)
北海道幌延地域の珪質泥岩の稚内層および珪藻質泥岩の声問層の4つの深度から地下水を採取し、ICP-MSで234U/238U同位体比を測定し、放射能比(AR)を得た。両地層では堆積時に間隙に取り込まれた海水に対し天水の浸透が認められている。ARは2から11であり、U濃度に対し負の相関がみられた。またU濃度は天水の混合割合とは負の相関であった。以上から天水の浸透割合が高いほど234Uの選択的な脱離および溶解が進行し、ARが増加したと考えられる。還元的かつ停滞性の深部地下水において、ARの測定は有用である。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
城田 桃花 氏
(麻布大学獣医学部臨床診断学研究室)
CTで気管狭窄の原因が明らかとなった牛の症例(1A02-05-03)
牛の気管狭窄は喘鳴や発咳などの呼吸器症状を示し、発育不良を引き起こすことで畜産農家に経済的損失を与える。CT検査を行うことで病態把握を3次元的に行うことができ、3症例のうち2症例において気管を圧迫している肋骨の部分切除術を行い、症状が改善した。子牛の肋骨骨折は分娩時の牽引が原因で生じることが多いが、気管狭窄の臨床症状は生後2週から1ヶ月で現れる。分娩時に牽引を行った場合には、呼吸器症状がなくてもスクリーニング検査として触診で肋骨骨折の有無を確認すべきと考えられる。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
田 超中 氏
(東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻)
Early protective processes of positively charged peptides to radiation damage(1B01-06-01)
正に帯電したペプチド(PCP)は負に帯電したDNAに結合し、細胞膜を透過する能力があるため、放射線防護剤または放射線増感剤の候補となり得る。histidine-tyrosine-histidine (His-Tyr-His)とlysine-tyrosine-lysine (Lys-Tyr-Lys)を固相ペプチド合成法で合成した。His-Tyr-Hisは Lys-Tyr-Lysよりも一本鎖切断に対する放射線防護能力が強かったが、二本鎖切断に対する防護能力は同等であった。これらはフリーラジカル消去能はHis-Tyr-Hisが高く、化学修復能力はLys-Tyr-Lysが優れていたことから説明できる可能性がある。結果はPCPの放射線防護剤としての可能性を示唆している。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
平井 悠大 氏
(東京都立大学大学院人間健康科学研究科/量子科学技術研究開発機構放射線医学研究所)
IVR被ばく線量測定・管理システムRADIRECのQSTでの運用に向けた取り組み(2B16-21-02)
IVRは外科手術に比べて低侵襲である一方、放射線皮膚障害に関する報告も多くなされている。法令により患者の線量記録・管理が義務づけられ、患者の表面線量管理の実施も勧告されている。蛍光ガラス線量計と専用装具を医療施設に輸送して、頭部IVR時の皮膚表面線量分布を高精度に測定し、WEBを通じて各医療施設へ線量情報の共有や管理が可能なシステム「RADIREC」を開発した。RADIRECの運用に向けた試験的取り組みを通じて、輸送体制の最適化、読取業務の標準化、WEBシステムの機能改善を達成した。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
山本 隆人 氏
(東京都立大学大学院人間健康科学研究科/量子科学技術研究開発機構放射線医学研究所)
放射線誘発ラット乳がんの1例における融合遺伝子の再結合配列の解明(2B09-11-01)
放射線治療後に発生する2次がんが懸念されており、要因の一つとして2つの異なる遺伝子から形成される融合遺伝子が発がんに関わることが報告されている。ヒト乳がんの動物モデルであるSprague-Dawley系統の雌ラットの7週齢時に、γ線4Gyまたは中性子線1Gyを照射し、発症した乳がんから放射線発がんに関わる融合遺伝子を11種同定した。Strn-Alk融合遺伝子は、DNA二重鎖切断再結合領域の位置や塩基配列の同定から修復機構にc-NHEJが関わった可能性を明らかにした。発表内容の構成や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。

過去の受賞者一覧
第56回(2019年)~第60回(2023年)はこちら
第49回(2012年)~第55回(2018年)はこちら