アイソトープ・放射線研究発表会 若手優秀講演賞 受賞者のご紹介

本賞は、若手の研究活動の奨励を目的とし、アイソトープ・放射線研究発表会において優秀な口頭発表を行った学生および若手研究者を表彰するもので、第49回(2012年)から実施しています。
受賞者の皆様の今後ますますのご活躍を期待いたします。
表彰式の様子はこちら

第60回アイソトープ・放射線研究発表会「若手優秀講演賞」受賞者

(会期2023年7月5日~7日)
受賞者(発表時の所属) 演題(講演番号)
授賞理由
井沢 玄佳 氏
(東京都立大学)
細胞老化が関与する放射線誘発乳がんの発生メカニズム(1C10-13-01)
がんの発症に細胞老化の関与が報告されているが、詳しいメカニズムは不明である。BALB/c-p53+/-雌マウスに0.7Gyのγ線を4週齢から1週間間隔で4回全身照射した群と非照射群を終生飼育した後解剖し、全ての乳腺腫瘍について病理診断を行った。免疫組織化学染色、RT-qPCRによりp16、p21、IL-6の発現が見られたことから放射線誘発乳がんにおいて細胞老化の関与が示唆された。関心の高い研究内容であり、発表や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
礒部 理央 氏
(東北大学災害科学国際研究所災害放射線医学分野)
低濃度トリチウムへの持続的な曝露による細胞影響解析(1B13-17-04)
排水中の濃度限度近くの低濃度トリチウムの影響を調べるため、トリチウム水(HTO)、有機結合型トリチウム(OBT)を正常ヒト網膜色素細胞由来不死化細胞に30日間の持続処理を行い、DNA二本鎖切断(DSB)、細胞質及び細胞核へのトリチウム取込を計測した。6,000Bq/mLのHTO、グルタミンでは細胞内へのトリチウムの取込はわずかでDSBの誘発は細胞増殖に影響を及ぼさない程度であったが、チミジンでは顕著なDSB誘発と細胞増殖抑制が観察された。研究は時宜を得ており手法も適切であり、発表や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
櫛田 和哉 氏
(東京農工大学大学院農学府共同獣医学専攻)
イヌCT灌流画像における被ばく量低減の試み(1B10-12-01)
動物においても被ばく低減は重要である。イヌ胃部に対するCT灌流画像検査を5頭の健常ビーグル犬に全身麻酔下でイオジキサノールを3mL/秒で投与し、2種類の管電圧、3種類の解析アルゴリズムを用いて実施し比較した。80kVでは120kVに比べてCTDIvolは約70%低減したが画像への影響は見られなかった。一方Deconvolution法では胸郭の動きが原因と思われるアーチファクトが多数認められ、非剛体レジストレーションが必要と認められた。研究は具体的で実用性が高く、発表や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
嶋田 舞穂 氏
(名古屋大学大学院生命農学研究科)
RIイメージ技術を用いた嫌気ストレス下のダイズの根における炭素動態の評価(2B10-13-03)
植物の根は養水分吸収などに重要な役割を有するが、水分、塩、養分等の環境によるストレスの影響を大きく受ける。播種後4日目のダイズに0~24時間の好気又は嫌気処理をした後、14CO2に1時間暴露してIP画像を得て経時的な炭素動態を観察した。処理による根の形態変化が生じる前に炭素動態が大きく変化していることが明らかになった。研究は植物の生育の理解に役立つ内容であり、発表や質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
永田 知輝 氏
(東京大学大学院農学生命科学研究科)
22Naと組織特異的にSOS1を発現させたシロイヌナズナ形質転換体を用いた根におけるNa+排出能の解析(2B10-13-02)
農地の塩害は急速に拡大しており、塩害に強い植物の開発が期待される。作出にはNa+の排出機序の理解が重要であるが、Na+が根端のみで排出されるのか、根全体で排出されるのかが従来不明であった。研究ではシロイヌナズナの根を新たに開発したエア・ギャップ・ゲルシステムに置き、22Na+溶液を根端に滴下して放射能を測定することにより、Na+は根全体で排出されることが明らかになった。研究はSDGsに大きく寄与する内容であり、発表と質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。
間宮 大晴 氏
(立教大学大学院理学研究科物理学専攻)
低エネルギー炭素イオンによる断片化DNAサイズのイオントラック構造依存性(1C07-09-01)
粒子線治療では細胞致死の主因であるDNAの二本鎖切断(DSB)の誘発率は荷電粒子の3次元的な分布(イオントラック構造)に大きく依存する。イオントラック構造を反映した細胞致死効果の解明のために、HIMACにおいてLETの異なる3種類の炭素イオン(11~330keV/μm)をヒトすい臓がん細胞に照射し、パルスフィールドゲル電気泳動法を用いてDSBの定量評価を行った。その結果、イオン通過によるDSBは飛跡中心部に集中して分子量の小さいDNA断片を効率よく生成することが明らかになった。研究内容はもとより、発表と質疑応答も高く評価できることから、本講演賞に値すると判断した。

過去の受賞者一覧
第56回(2019年)~第59回(2022年)はこちら
第49回(2012年)~第55回(2018年)はこちら