研究者紹介 No.8

研究者紹介
更新日:2020年3月31日(所属・役職は更新時)
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アイソトープとの出会い~学生時代について

アイソトープ・放射線の研究を始めたきっかけを教えてください

元々海洋環境保全関係の研究をしたいと思っていましたが,研究室を選択する学部学生のタイミングで,2011年3月11日の地震がありました。放射線に関する知識はほぼ皆無でした(α線やβ線といった基本的な単語すら聞いたことがないようなレベルでした)が,錯綜する情報の中,正しい知識を得ようと思って放射線の勉強を始めたのがきっかけです。元々やりたかった「環境」というテーマともリンクしたこともよかったです。

研究職に進むことを決めた当時の心境を教えてください

何故か自分の将来に対する不安は全くありませんでした。それよりも,色々なことに挑戦したいという思いが強かったです。ストラスブール大学(仏)との博士論文共同指導を神戸大学で初めて受けることができたり,何かと運が良かったように思いますが,それよりも周りの人に恵まれていたことが大きいと感じています。フランス人の先生たちとの出会いは修士2年の時からですが,今では共同研究者として共著論文をバシバシ発表しています。このような機会を与えてくれた指導教員の先生方には頭が上がりません。。。

現在の研究について

現在の研究内容、おすすめポイントを教えてください

自分がやっている研究の中でもイチオシなのが,30 eV以下の低エネルギー電子と有機化合物の反応です。カナダのシャーブルック大学と共同で行っている研究ですが,電子1つ1つが有機化合物と相互作用を起こしたときの反応を追っています。相互作用を起こした電子が1つの時と2つ以上の時では全く違う反応が起こります。高分子中で、電子への耐性の弱い官能基から順にダメージを受けます。有機化合物と相互作用を起こした電子の数という最も基本的ではあるんだけど,あまり注目されてこなかった量に着目している点が面白い部分です。

研究を行う上で大事にしていること(モットー)を教えてください

人との繋がりを大切にすることです。上の世代の人達からしてもらって嬉しかったこと,参考になったことをできる限り後輩に伝えようと思っています。研究だけではないですが,先輩方の努力があって,今の自分の研究があると思っているので,先人たちの築いてきたものへの敬意だけは忘れないようにしています。それと,他の人からのアドバイスも時に無視するくらい,強い意志を持つことを大切にしています。自分のやりたいようにやってみて,ダメだったら謝ってやり直せばいいというスタンスで基本行動してます。

今までで研究をしていて苦しかったこと、辛かったことを教えてください

まず「失敗」はすることがないと思います。研究で上手くいかなかったら,上手くいかない方法を見つけたと思って,別の方法で取り組むようにしています。そうすることで,「失敗」と思えるようなことでも「過程」に変えることができるんじゃないかと。そんな風に思っています。

今後の目標・展望を教えてください

自分の娘が物心付いた時に,父親としてカッコいいと思われるようになりたいと思います。それが研究なのかそれ以外なのかは全くわかりませんが。研究に関して言えば,分野を引っ張っていくような研究者になりたいと思っています。国内だけでなく,国際的にも認められるような人間になりたいと思っています。そのためには,論文をどんどん発表していきたいですね。

学生へメッセージ

アイソトープや放射線を使った研究をしている(したいと考えている)学生へ一言お願いします

放射線というと「危ない」,「難しい」といったイメージが先行すると思います。ですが,放射線を利用することによって広がる世界に注目して下さい。特にがん治療において,放射線療法は外せない手法になりつつあります。利点に目を向けることで興味がわいてくるのではないかと思います。


楠本 多聞(くすもと たもん)
専門
放射線化学,放射線計測
略歴
2017年ストラスブール大学修了 博士(物理化学),2018年神戸大学大学院海事科学研究科修了 博士(工学)を経て,2018年より現職