19. ラジオルミノグラフィによる血液および各種試料中ラジオアイソトープの簡便,迅速な測定法

中島栄一*1

*1三共(株)薬物動態研究所
〒140-8710 東京都品川区広町 1-2-58

Key Words :
radioluminography, blood autoradiography, quantitative autoradiography, imaging plate, bioimaging analyzer

† Instruments for Radiation Measurement in Biosciences : Series 3. Radioluminography.
19. A New Analytical Method for Radioisotope in Blood and Various Samples Using Radioluminography.
Eiichi NAKAJIMA:
Drug Meta-bolism and Pharmacokinetic Research Laboratories, Sankyo Co., Ltd., 1-2-58 Hiromachi, Sinagawa-ku, Tokyo 140-8710 Japan.



1. はじめに

X線フィルムによるオートラジオグラフィ (ARG) で放射能を測定する試みは特に脳神経領域で早くから行われ, 1980年前半までに Sokoloff らによる脳局所グルコース代謝機能 (local cerebral glucose utilization, LCGU) の評価法を始めとして興味ある報告が多数見られている1)。 筆者がアメリカ国立衛生研究所 (NIH) の大脳代謝研究棟で ARG の定量法を習得していた折に, NIH で長年にわたり改良を加えたすぐれもののソフトを土産にいただいて, 社内に同じシステムを組み上げたのはこの頃のことであった。

定量的オートラジオグラフィ(QARG) を成功させた主なポイントは, ①フィルムの読取り技術の進歩 : これまでのようなスポットとしてではなく, ドラムスキャン型デンシトメータでフィルム全域を微小の光径 (25 から 400μm の 5 段階切替え) で読み取ることによって精度を向上させたこと,②コンピュータのメモリ増量: DEC 社の PDP-11 を採用することによって, A4 版のX線フィルム 1 枚を 50μm のピクセルサイズで読み取った際の 35Mbyte の全データを記憶できるメモリ容量が確保できたこと, そして③画像解析ソフトの充実 : Sokoloff らが長年の経験を重ねて改善したソフトで, ズームや ROI(region of interest) 設定, 補正曲線による LCGU 値への換算, フィルム間のずれの補正等が容易に行え, 微細な組織分布でも ROI を容易に設定し測定が可能になったこと, などがあげられる。

しかしながら, X線フィルム ARG の定量にはなおいくつかの変動要因が伴い, 現像条件の変動や, 読取りの際にフィルムの微妙なゆがみによるバックグラウンド (BG) の不均一化, 三次元補正曲線で低濃度部位を補正する難しさなどを注意深く克服する努力が必要であった。 したがって, ラジオ薄層クロマトグラフィ (TLC) や電気泳動スポット検出など ARG が多用されていた領域では, ARG は単に目的スポットの位置を確認するためのものに過ぎず, ARG の濃度情報を数値化するには至らなかった。

富士写真フイルム社が輝尽性発光体を塗布したイメージングプレート (IP) を放射線ディテクタとしてバイオイメージングアナライザ (BAS, Model BA-100) で ARG を定量的に解析する手法 (後に radioluminography, RLG 法と命名) を開発したことを知ったのは, 社内に Sokoloff 方式のデンシトメータシステム (DDS) を立ち上げてからわずか 2, 3 年後のことであった。 当時は定量的全身 ARG (QuantitativeWhole-bodyAutoradiography,QWBA)法をスタートさせて, 14C-S-adenosylmethionine 投与ラットの組織分布を DDS 法で測定していたときのことであった。 この機会に BAS による測定と LSC 法を加えて三者で比較しようと, 宮ノ台研究所に日参し, BA-100 をしばしば使用させていただく間に, IP の定量性に関する底力を目の当たりにすることができた。

現在の BAS に比べると何分開発当初のことで機能は雲泥の差があり, メモリを切り詰め, 最小光径は 100μm に抑えられ, 画像の拡大や解析の機能は発展途上の感があって脳など微小分布測定への応用性は危ぶまれたものの, それらを差し引いてなお, 広い定領域や感度の高さは予想を上回り素晴らしいものであった。 それは WBA の定量に止まらず, これまで ARG による測定の対象にならなかった TLC ラジオスポットの測定や, 各種溶液の測定にも応用できることを予測させ, 薬物動態研究領域における沃野をはるかに見渡す思いであった。

この成果に力を得て, 三者の比較データを1987年の薬物代謝研究法の進歩講演会 「定量的オートラジオグラフィ特集」2) および薬物動態学会, 同誌等に発表し3), 座長の松岡先生始めさまざまな討論をいただくことができ, このときの画像が BAS のパンフレットに登場するという光栄に浴すこととなった。

その後ラジオ TLC の解析への応用はすぐに取り組まれ4)5), 本シリーズにも紹介されたように, 薬物動態談話会の主催で多施設共同研究によるバリデーションが行われている6)。 その結果 RLG 画像から直接に各スポットの放射能量あるいは割合を求める方法として定着し, 作業の効率上昇と廃棄物の減少という効果がもたらされた。

一方, 血液中 14C の濃度等, 放射性核種を含む溶液は, サンプルオキシダイザで燃焼するか可溶化剤処理後に脱色して, LSC で計数するのが定法である。 しかし近年有機溶媒やバイアル瓶, マイクロプレートなど放射性廃棄物の増大が管理担当者を悩ますようになり, 廃棄物をいかに減少するかの努力がユーザーに求められるようになった。

これに対して RLG 法は, 試料を IP に露出し BAS で読み取ることによって, ARG から直接に放射能を測定することができ, この方法で生じる廃棄物はほとんど可燃性の吸収材のみであって, LSC 法に比べて放射性廃棄物を大幅に削減でき, 環境にやさしく, ランニングコストの少ない手法として評価できる。

本報告では, 血液等 RI 溶液を適当な吸収材にスポットして IP に露出し, BAS で測定する方法について概説する。



2. ポリエチレン濾紙法

2.1 概要

筆者らは, 容易に入手でき, かつ燃焼可能なポリエチレン濾紙 (PFP, 東洋濾紙, 千代田保安より入手) に液体試料を吸収・乾燥させ, 放射能濃度を測定する方法を実用化した7)8)。 PFP の吸収容量が大きいことによって血液に限らず, 血漿や各種溶液, あるいは糞や細胞のホモジネート等, PFP 上に伸展・乾燥できるものは測定の対象になる。 また, 14C の他, 3H, 32P, 45Ca, 125I など通常のトレーサ実験で使われる核種はいずれも良好な直線関係が得られている (図 1図 2 ) が, 32P や 125I は放射線の飛程が大きいため, スポット間の距離を置くとか, 隣接 IP からのクロストークを排除するための遮蔽物を置くなどの配慮が必要となる。


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図 1 14C, 32P および 45Ca スポットの RLG 画像


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図 2 14C, 32P 法および 45Ca 濃度の RLG 法および LSC 法の相関性

一方, High Performance Liquid Chroma-tography(HPLC)の溶出液のようにサンプル数が多く, 試料当たりの液量も多い場合には, PFP 法などの吸収材にプロットさせる方法では限界があった。 そこで馬場らは, 各フラクションをマイクロプレートに分取し, 乾燥後にマイクロプレートの上半分を切除して IP との距離を短縮する等の工夫を加えることによって効率よく測定している9)10)。 この方法は本シリーズですでに紹介されたように11), 1 枚の IP 上に数枚のマイクロプレートを一度に露出できるので 1 回分のクロマト分離試料の測定が可能である。 さらに真空あるいは Ar ガスを充填した状態で露出することで 3H にも応用している。

2.2 吸収材

吸収材としては血液のように粘度の高い試料を速やかに吸収し, β線に対しての自己吸収が少なく, かつ容易に入手できることが望ましい。 また測定の感度を上げるためには, 試料をできるだけ多くスポットする方が有利である。 吸収材として β線の飛程に対して適当な厚みを持ち, 材質の均一性, 液の保持性, 吸収の早さに優れ, かつ入手しやすいなどの点を配慮して吸収材を種々検討した結果, 次のように PFP 法が適していることがわかった。

① TLC プレート : 材質の均一性は高く, 水溶液は吸収性がよいが, 血液はほとんど吸収されなかった。
② 濾紙 : 定性分析用濾紙を数種類検討したが, いずれも裏面に浸透するためにスポット量が不正確になりやすい。
③ PFP 法 : ポリエチレンを裏打ちした濾紙は保液性に優れ, 血液やホモジェネートでもスポット量と発光強度(photo-stimulated luminescence, PSL/スポット)間で相関性が得られ, 再現性が高かった。 なお, 材質の均一性にはやや難点があって β線のエネルギーが低い場合にはばらつきがやや増える傾向が見られたものの, 検討した素材のなかでは最も測定に適したものであった。 また使用後は可燃性の廃棄物として扱えるので廃棄物を減少するメリットがあった。 以下, この手法をポリエチレン濾紙法 (polyethylene-lining filter paper method, PFP 法) と称する。

一方 1Bq 以下の低放射能試料や, 数μ l しかとれない場合には, たとえばサランラップ上に均一になるように伸展・乾燥して測定することによって高い再現性が得られる。 これに関しては長塚らの詳細な検討を参照されたい12)。

2.3 方法

方法の概要を図 3 に示した。

放射性試料から得られた PSLスポットを放射能濃度(Bqml)に変換するために, 両者の相関式を求める必要がある。 それには Bgml が既知の標準溶液を十濃度段階前後作成し, PFP 上にスポットしてスポット当たりの PSL を測定して両者間の相関式を求めればよい。 溶液の組成は未知試料と同じ成分の溶液とし, RI の添加量は試料の全濃度を含む濃度範囲を設定するなど, 測定条件をできるだけそろえる配慮が正確な結果を与える。 14C水溶液の測定には 14C-2-deoxyglucose(2DG) 水溶液 1 - 70dpm/μl の 7 濃度段階希釈液を, 血液は 14C-2DG を添加して 12 - 1 890dpm/μl の 9 濃度段階を調製した。 一方 3H 用試料としては 3H-phenylalanine をラット血液に添加して 50 -1 500dpm/μl の 4 濃度段階とした。


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図 3 PFP 法による血中濃度測定

RLG 法は, 上記の標準溶液 10 - 30μl を PFP 法にスポットし (n=3), 3H はそのまま, それ以外の核種はルミラー膜で覆って IP (スタンダードタイプ:BAS-MS,および3H-タイプ: BAS-TR, 20×40cm, 富士写真フイルム) に密着し, 鉛遮蔽箱 (5cm 厚) 中に 3H は 96 時間, 14C などは 24 時間露出した。 露出後 IP はバイオイメージングアナライザ (BAS-2000, 富士写真フイルム, 解像度 200μm, 感度 10 000, ラチチュード 4) で読み取って発光強度を求め, 放射能濃度 (dpm/ml)発光強度 (PSL/スポット) 間で検量線を求め, 未知試料の放射能を測定した。

標準試料の解析は, IP への露出, 読取りおよび ROI 設定の操作を 4 回繰り返し実施して変動を評価した。

LSC 法は, Packard 社の Low Back Mode : Model 2250CA(LL-UL 18-102,countingtime10および60min) および Standard Mode Model 460CD (LL-UL 0156, counting time 2 および 10min) を用いた。 上記の標準試料等を各 10 - 30μl バイアル瓶に採取し (n=3), 水溶液試料は 10ml のピコフロー系シンチレータを添加して測定した。 血液は 0.5ml の可溶化剤 (NCS) で溶解後に過酸化ベンゾイルで脱色, ピコフロー系シンチレータ 10ml を添加した。 測定は 4cycle の平均値と CV% を求めた。

2.4 バックグラウンドの検討

X線フィルムでは現像むらやデンシトメータで読み取る際のフィルムの微妙なゆがみがバックグラウンド (BG) に影響を与える主な因子となっていた。 RLG では IP の汚染, 消去器の光源むら, 装置の感度不均―性などが挙げられ, 対策としてバリデーションキットが提供されている。 表 1 に LSC 法および RLG 法による 4 回の繰返し測定の平均値, 標準誤差(SE)およびその平均値に対する割合 (CV) を示した。 BGの変動に関する考察は RLG 研究会第 1 回分科会共同研究最終報告13)および馬場14) 等を参照されたい。


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表 1 LSC法とRLG法によるBGの測定結果

シールドボックス中に 24 時間放置した IP の BG レベルを 15 か所で測定した結果, いずれれの部位でも CV 値は 0.5% 以内に収まるものであった。 IP 上の残像を消去直後に測定した BG レベルは 0.392PSL/mm2 であり, シールドボックス中に 24 時間放置した後に 0.737PSL/mm2 に上昇した。 したがって宇宙線などの外部放射線に起因する BG は, 本条件下で 0.737-0.392=0.345PSL/mm2/24h 程度であると推定される。 消去直後には宇宙線など外部放射線の寄与はほとんど無視できることから, ここで観察された BG は主に光学系等装置に由来するノイズであろう。

LSC 法と RLG 法とで BG の CV を比較すると, 標準型および低 BG 型 LSC 法による計数ではそれぞれ 10 分計数で 3.3, および 2.5%, 60 分計数で 1.1, および 4.1% であった。 一方 RLG 法では 24 時間露光で 0.8% であった。 低 BG 型 LSC 法の 60 分測定で 4.1% と高い値が得られたことは BG の絶対値が小さいためであると思われる。 RLG 法で 0.8% と小さい値を示したことは, ROI が大きかったことにもよるが, RLG 法が高い再現性を持つことを示すものである。

標準型 LSC では 10 分, 1 時間いずれの計数時間でも約 37dpm の BG が観察され, S.E. は計数時間を長くとるほど減少して 1 時間計数では 10 分値の約 13 となった。

一方低 BG 型 LSC では 10 分計数で標準型 LSC の 12 程度の 18.6±0.46dpm, 1 時間計数では 14 以下の 8.0±0.33dpm であり, BG レベル, S.E. ともに改善された。

これに対して RLG 法では, シールドボックス内に 24 時間露出した IP の BG は, 試料のスポットサイズに相当する大きさの ROI 当たりで 232±1.9PSL/345.8mm2/24h, 単位面積当たりで 0.671PSL/mm2/24h の BG レベルが観察された。

2.5 14C-2DG 水溶液の測定

まず, 水溶液試料について RLG 法の測定結果が LSC 法とどの程度の相関性を示すのかについて検討した7)8)。 水溶液は 14C-2DG を 1 - 70dpm/μl の 7 濃度段階に希釈した液を調製した。 これらの 14C-2DG 水溶液 10μl を 3 例ずつ LSC 用バイアル瓶に採取し, 標準型 LSC で 10 分間 4 回測定した結果と, 同水溶液 10μl を 3 例ずつ PFP にスポットし, IP に密着, 露出, 読取りおよび解析操作を 4 回繰り返した結果を表 2 に比較して示した。


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表 2 14C水溶液の RLG と LSC 法による測定値の再現性の比較

その結果, 10 から 20dpm の低放射能試料では LSC 計数法に比べて RLG 法で繰り返し測定した結果の CV がやや低い傾向がみられたが, 設定濃度全般での CV は LSC 法では 0.5 - 12%, RLG 法では 0.8 - 13% であって, 本条件下では両測定法の変動幅はともに同程度であると思われる。 LSC 法で得た溶液中 14C 濃度 (dpm/10μl, X軸) と RLG 法の測定値 (PSL/スポット, Y軸) の両者の間で相関式を求めたところ, 水溶液では y=3.02x, 血液では y=7.4x となり, 相関係数は 0.999 以上の高い値を示した。 この式を検量線として使用し, 未知試料の 14C 濃度を RLG 法で測定することが可能である。

2.6 血液中 14C 濃度の測定

(1) PFP 法の再現性

次に血液の放射能濃度を RLG 法で測定するために, 標準試料としてヘパリンを添加した Wistar-Imamichi 系雄性ラットの血液に 14C-2DG を添加して 12 - 1 890dpm/μl の 9 濃度段階を調製した。 各 20μl をバイアル瓶に採取 (n=3) して LSC(Packard, LC2250) で濃度 (Bq/ml) を測定するとともに, PFP 上に各 20μl をなるべく厚くならないように均一に広げてスポット (n=3) して IP に 24 時間露出し, RLG(Fuji, BAS2000) で発光強度を測定した7)8)。 PFP はあらかじめ桝目を記入しておくと便利である。 20 - 30μl であれば 2.5cm 角, 50μl 程度なら 3.5cm 角のスペースが必要である。 図 4 に示したように, LSC で求めた血中濃度と RLG で求めた発光強度との相関計数は 0.999 と高く, PFP 法が血中放射能測定法として実用可能なことが明らかにされた。 この相関式を濃度未知血液測定用検量線とした。 血漿に関しても同様の手法で検量線を作図した。


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図 4 LSC 法で求めた血中濃度と RLG 法で求めた発光強度との相関図

(2) 14C 標識化合物のイヌ血液および血漿中濃度測定への応用

イヌ 3 頭に 14C-標識化合物を経口投与後に経時的に採取した血液, および血漿を各 20μl, 3 例ずつ PFP 上にスポットして RLG 法で解析し, 上記の検量線で血中濃度を求めた結果を図 5 に経時的に示した。 またこれらのすべてのデータについて, RLG 法で求めた血中濃度値をX軸に, 別途 LSC 法で測定した血中濃度値をY軸にプロットして両者の相関関係をグラフに示したものが図 6 である。

両者は y=x に近似し, r=0.992 と高い相関性が示された。


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図 5 RLG 法による 14C 標識化合物投与イヌの血液および血漿中濃度


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図 6 血液中および血漿中濃度の RLG 法および LSC 法間の相関性

2.7 血液のスポット量と発光強度

PFP 法に 14C 含有血液を 10, 20, 30 および 50μl 添加して (n=3) 得た RLG 法の発光強度値と血液量との関係を図 7 に示した8)。

両手法による測定結果は相関係数 0.999 以上であり, 本条件下では添加血液量と発光強度とが比例することが確認された。 すなわち血液による β線の自己吸収の影響は 50μl 程度のスポット量ではほとんど無視できるが, 一連の実験ではスポット量をそろえ, スポット面積をできるだけそろえる方が正確な結果が得られる。 一方 3H 含有血液試料の場合には, 一定のスポット量では濃度と発光強度が直線を示したが, スポット量と発光強度との間には比例関係は見られなかった。


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図 7 血液のスポット量と発光強度との関係

2.8 3H 濃度の測定

LSC 法で得た血液中 3H 濃度 (dpm/10μl, X軸) と RLG 法の測定値 (PSL/スポット, Y軸) とでグラフを作図し, 両者の相関式を求めたところ, 25μl のスポット量では y=0.0155x+5.8, 50μl では y=0.0141x-2.6, 75μl では y=0.0118x+28.7 となり, いずれも相関係数 0.999 以上の高い相関性が示された8)。 この式を検量線として用い, 同時に露光した未知血液試料中 3H 濃度の測定を行っている。

一方, スポットした血液量の増加率は発光強度の増加率と比例せず, 血液による β線の自己吸収が影響したことが観察された。 したがって 3H-血液の測定ではスポット量, 乾燥条件 (スポット面積) などの条件を一定に保つことが必要である。

3H の場合には β線の飛程が短いので保護膜のない 3H 用の IP を使用するが, 試料が IP に直接に接触するので IP 面のコンタミが避けられず, 高価な IP を使い捨てにしなければならなかった。

吉沢らは受容体研究領域で多用される 3H への実用性を高めるために, 試料を IP から浮かせて非接触状態として露出し, さらに露出環境を真空にすることによって 3H のβ線が IP に到達する効率を高める, いわゆるフローティング RLG 法を考案して, IP の再使用を可能にした15)16)。 真空による飛程の延長効果は約 10 倍であり, これによってマイクロプレート内の 3H の測定に応用できるという。

一方, 野川らは 3H の β線が透過しうる薄膜でカバーすることによって, 3H 用の IP を再利用する方法を提唱している17)。 薄膜としてポリエチレン 2.6ナフタレートフィルム (帝人, 1.36mg/cm3) の 0.3, 1, 1.5μm 厚, およびポリエチレンテレフタレートフィルム (東レ, ルミラー, 1.39mg/cm3) の 0.5 および 0.7μm 厚を検討した。 その結果, 0.3 および 0.5μm の薄膜でカバーすると, しない場合に比べて PSL 値はそれぞれ 40 および 18% に低下したが, IP のコンタミは避けられ, 再利用が可能であった。

2.9 45Ca の測定

DBA/2 マウスは自然発症の心筋石灰沈着症を早期に発症し, 特に右心室に局在する。 45Ca を投与したマウスの心筋中 45Ca 濃度を RLG による QWBA で測定し, またの血漿中濃度を RLG-PFP 法で測定した18)。 標準試料として 1-1 680dpm/μl の 45Ca 濃度の血漿を 10 濃度段階で調整し検量線の作成用に供した。 それぞれを PFP に 10μl ずつ, n=3 でスポットし IP に 16 時間露出し, BAS2000 で測定した発光強度と, LSC 法でそれぞれを 9 回ずつ測定した放射能濃度 (dpm/10μl) とを比較して表 3 に示した。


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表 3 血漿中 45Ca 濃度の RLG 法と LSC 法の比較

その結果, 3 例のスポット間でのデータの再現性は LSC 法に比べて RLG 法が顕著に優れていた。 これは 45Ca (半減期 163.8 日, Emax 0.257MeV) の β線エネルギーが 14C の 1.5 倍高いために, PFP による β線の自己吸収の影響が少なく, IP への到達率が改善されて検出感度が高くなったことなどが寄与しているものと思われる。

3. お わ り に

血液中の 3H, 14C など軟β放射核種の LSC による定量には, クエンチング現象などが伴って正確な測定は困難であった。 今回血液など液体試料を PFP にスポットし, IP に露出後 RLG 法で濃度を定量する方法を検討した結果, 以下に列挙したように, 本手法が IP の高感度面センサーとしての特色を活かした新たなアイソトープ測定法として, 血液をはじめ各種溶液中 3H, 14C 濃度の迅速, 簡便な定量に有用であることを確認した。 一方青木らは, RLG 法と二次元位置感応型比例計数管検出器 (AMBIS-4000) ならびにX線フィルム ARG の三者で比較を行っており, それぞれの長短を使いわけることを奨めている19)。

(1) IP 内の各部位で感度の均一性が確認された。
(2) PFP に 3H- および 14C-2DG, 45Ca 水溶液, 血漿あるいは血液をスポットした場合の発光強度値は, ともに LSC 法で求めた放射能濃度値と相関係数 0.999(p<0.01) 以上で相関した。
(3) 14C-血液のスポット量を増すと PSL 値も直線的に増加し, スポット量と発光強度の間に比例関係が認められた。 すなわち 50μl 以下では血液による β線の自己吸収の寄与は少ないものであった。
(4) 3H- では一定のスポット量では同様に放射能量と発光強度の間に高い相関性が見られたが, 血液のスポット量を増してもほとんど変化せず, 発光強度に飽和現象が見られた。

PFP 法は, 燃焼または脱色, 溶解など LSC に伴う煩雑な行程が省けるとともに, 多数の試料でも同時に吸収材にスポットして 1 回の露出を行うだけですべての濃度値が得られ, 測定に要する時間を短縮できる, などの利点をもつ。 さらに液体シンチレーション廃液が生じない点も大きな特徴の一つである。 この手法は血液に限らず, 各種溶液, あるいは細胞のホモジネートなど吸収材に伸展, 乾燥できて, かつ自己吸収などの条件が一定にできるものであれば適用でき, 応用性は広い。



文  献


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